聖なる消費とグローバリゼーション(社会変動をどうとらえるか 1)聖なる消費とグローバリゼーション(社会変動をどうとらえるか 1)
著者:遠藤 薫
勁草書房(2009-09-08)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
 今回は、社会学者・遠藤薫さんの『聖なる消費とグローバリゼーション』をご紹介したいと思います。その中でも、いまの季節にぴったりの「クリスマス」考察の部分です(第2章 グローバリゼーションの聖誕祭-青いサンタクロースと赤いサンタクロース」)。

 グローバリゼーションという言葉が日本で使い始められたのは、1970年代からのようですが、いまでは、すっかり日常用語として定着していますね。アメリカの議会図書館OPACでglobalizationをタイトル検索すると、なんと5000以上の文献がヒットします。国立国会図書館のOPACでも、タイトルキーワード検索で634件もヒットします。

 さて、本書の目的は、
見慣れた些末な文化的アイコンにたたみ込まれた「歴史」を丹念に解読していくことにより、「国家」と「世界」、「近世」と「近代」が激しくせめぎ合った19世紀後半から20世紀初頭の社会変動を分析し、そこから現代のグローバリゼーションをも射程に入れた、一般理論を構築すること

にあるそうです。そのグローバリゼーションの中でも、文化的側面を取り上げ、明治期~大正期の日本を焦点に定めて、グローバル文化としての「クリスマス」と「サンタクロース」を、社会変動との関わりで実証した研究といえるでしょうか。ちなみに、グローバル文化とは、「グローバリゼーションによって世界で共有されている文化」(104ページ)をさしています。

 クリスマスが日本に流入したのは、明治初期のことです。江戸時代までは、キリスト教が禁止されていたのですが、明治維新後の明治6年、キリスト教の禁制が解かれます。そして、明治12年、日本で日本人によるクリスマスが最初に行われたそうです。そして、

新聞記事からも、明治10年代、20年代、30年代と、次第にクリスマスが「外国人の祭り」から、「自分たちが楽しむ日」へと変化していくのがわかる
とのことです。さらに、明治28年には、『久里寿満寿』という本が出版されています(111ページ)。この本では、クリスマスと並んで、
「サンタクロース」について、
その「世界性」が主張され、キリスト教の聖人というよりむしろ、原初的な翁神のイメージによって人びとの心に訴えようとしている
そうです(122ページ)。つまり、この頃には、クリスマスと、その文化的アイコンであるサンタクロースが、日本でも「グローバル文化」になっていることを示しているでしょう。同時に、サンタクロースの受容は、古くからある信仰との親和性をもって行われた、とも分析されています。

 欧米でも、『クリスマスは、「冬至祭」の変形態であり、そもそも死者を迎える祭りであった』(131ページ)ということですから、正統キリスト教の「キリスト誕生(降臨)日」とは異なる文脈で受け入れられ、広まったことが想像されます。

 さて、少し飛ばして、「サンタクロース」現代版の原型ですが、「神学者で文筆家のクレメント・クラーク・ムーア」だとのことです。彼の書いた「クリスマスの前の晩」が1823年、ニューヨークの『センチネル』紙に掲載され、大人気を博したのが、ブレイクするきっかけだったそうです。重引になりますが、その一説は次のようになっています。

クリスマスの前の晩だった。家の中には
起きているものは何もなかった。ネズミ一匹さえも
煙突のそばには靴下がそっと掛けられていた。
聖ニコラウスがもうすぐやって来ると信じて
子どもたちはベッドの中にすっぽりくるまっていた
 これは、まさに今に伝えられる神話そのものですね。こうしたアメリカ版クリスマス神話が、日本に輸入され、消費文化の中で広められたのです。雑誌Lifeなどの総合雑誌でも、定期的にクリスマスやサンタクロースのメッセージが繰り返し流され、
クリスマス/サンタクロースのイメージが、19世紀には古典的な聖人のイメージ、20世紀初頭にはファンタジックな妖精のイメージ、そして次第に理想化された家庭のイメージへと変化していく様子が窺われる
とのことです。なお、日本でも児童雑誌(『子供之友』など)を通じて、サンタクロースが子供たちの間に普及していきます。また、丸善、明治屋、森永など、当時の新興企業が、格好のビジネスモデルとして、「クリスマス」や「サンタクロース」の文化アイコンを利用して、日本社会への普及を促進したそうです。現代でいえば、バレンタインデーなどがそうですね。

 最後に、本章での考察を通じて明らかになった点として、
(1)世界規模での共時的な時代意識の共有
(2)異なる文化的歴史的文脈における、普遍的神話構造の存在
を指摘しています。詳しくは、本書を手にとってごらんください。

 クリスマスやサンタクロースは、いまでは子供だけではなく、若い恋人たちにとっても欠かせない年中行事になっていますね。そのあたりは、バレンタインデーとともに、さらなる考察を期待したいところです。