Didital Divideと同様、最近忘れられているネット用語として、WEB2.0ということばがある。ソーシャルメディアにほとんど置き換えられた感がある。

 Web2.0という言葉が初めて登場したのは、いまから7年前の2004年のことだ。同年10月、アメリカの出版社オライリーメディア社のCEOであるテム・オライリー氏が、サンフランシスコで「Web2.0カンファレンス」という会議を開催したのが始まり。翌2005年9月30日、オライリー氏は、ウェブ上で「Web2.0とは何か?」という題名の論文を発表し、その全体像を明らかにした。その直後から、日本でもこの言葉が大きな話題になった。日経ITPROのウェブサイトをみると、10月21日付けの記事として、「web2.0を知っていますか?」という詳しい紹介記事が掲載されている。また、2006年2月には、Internet Watchでも、詳しく紹介されている。そこでは、web2.0 7つの原則という形で整理されている。

(1)ウェブがプラットフォームとして振る舞う → グーグルなど
(2)集合知を利用する → グーグル、アマゾン、はてなブックマーク、@コスメ、ウィキペディアなど
(3)データは次世代の「インテル・インサイド」 → グーグルマップなど
(4)ソフトウェア・リリースサイクルのおわり →ソフトは市販ではなく、自社サーバーにおく
(5)軽量なプログラミングモデル → 迅速に開発できる環境を構築
(6)単一デバイドのレベルをこえたソフトウェア → PCだけではなく、ケータイやスマホにも対応
(7)リッチなユーザー経験 → 待ち時間のない、ユーザー本意のサービス

 これらの原則は、ソーシャルメディア全盛の今日でも十分通用するものではないだろうか。

 では、Web2.0はその後、どのように展開しているのだろうか?まったく消えてしまった訳でもないようだ。オライリー氏自身が2009年に発表した "Web squared: web2.0 five years on"という論文で、その手がかりを探ってみたい。原論文を読もうと思ったら、その抄訳(解説つき)がウェブ上で公開されていたので、とりあえず、リンクをつけさせていただきたい。

 ・web squared (ウェブの2乗 その1)
 ・web squared (ウェブの2乗 その2)
 ・web squared (ウェブの2乗 その3)
 ・web squared (ウェブの2乗 その4)

 例によって、原論文の中に出現する難しい英単語を学びながら、読み進めていくことにしたい。

<序>
・bust  破裂、破産、破綻
 〔原文〕 The original Web2.0 Conference was designed to restore confidence in an industry that has lost its way after the dot-com bust.
 〔訳〕 もともとのweb2.0カンファレンスは、ドットコムバブル破綻のあと、業界が見失った自信を復活させるために企画されたものである。

・sentient 感覚をもった
 〔原文〕We're constantly asked about "Web3.0". Is it the semantic web? The sentient web? Is it the social web? The mobile web?
 〔訳〕われわれは絶えず「ウェブ3.0」について尋ねられてきた。それは意味論的なウェブか?感覚をもったウェブか?ソーシャルなウェブか?モバイルウェブか?、などと。

<集合知を再定義する:新たな入力センサー>
( redefining collective intelligence: new sensory input)

・lingua franca 共通語
 〔原文〕 Consider search - currently the lingua franca of the Web. (中略) Modern search engines now use complex algorithms and hundreds of different ranking criteria to produce their results.
 〔訳〕ウェブの共通語になっているサーチ(検索)を考えてみよう。(中略) 現在のサーチエンジンは、検索結果を作り出すために、複雑なアルゴリズムと数百ものランキング基準を用いている。

<ウェブはどのようにして学ぶのか:明示的 対 暗示的な意味>
(How the Web learns: Explicit vs. Implicit Meaning)

・inferential 推理的、推測的、推論的
〔原文〕But how does Web learn? What we see in practice is that meaning is learned "inferentially" from a body of data.
〔訳〕しかし、ウェブはどのようにして学ぶのか?実際に見るのは、意味がデータの中から「推論的」に学習するということである。

<ウェブと世界の出会い:「情報の影」と「事物のインターネット化」>
(Web Meets World: The "Information Shadow" and the "Internet of Things")

・breakthrough 大きな進歩、躍進、貴重な発見
〔原文〕The increasing richnessof both sensor data and machine learning will lead to new frontiers in creative expression and imaginative reconstruction of the world. (中略)All of these breakthroughs are reflections of the fact noted by Mike Kuniavsky of ThingM, that real world objects have "information shadows" in cyberspace. For instance, a book has information shadows on Amazon, on Google Book Search, on Goodreads, Shelfari, and librarything, on eBay and on BookMooch, on Twitter, and in a thousand blogs.
〔訳〕センサーデータや機械学習におけるリッチさの増大は、創造的な表現や世界のイマジネーションに満ちた再構築における新しいフロンティアへと導いてくれるだろう。(中略) これらすべての画期的進歩はThinfMのmike kuniavskyが述べているように、現実世界の事物がサイバースペースに「情報の影」をもっているという事実の反映である。例えば、一冊の本はアマゾン、グーグルブックサーチ、等々に情報の影をもっている。

・hodgepodge (主に米国で用いられる)ごた混ぜ
〔原文〕Many who talk about the Internet of Things assume that what will get us there is the combination of ultra-cheap REID and IP addresses for everyday objects. The assumption is that every object must have a unique identifier for the Internet Things to work. What the web 2.0 sensibility tells us is that we'll get to the Internet of Things via a hodgepodge of sensor data contributing, bottom-up, to machine-learning applications that gradually make more and more sense of the data that is handed to them.
〔訳〕事物のインターネット化について語る多くの人は、われわれをそこにつれていくのは、日常的な事物に対する超安いREIDタグとIPアドレスの結合だということを想定している。この前提は、事物のインターネット化がうまく働くためには、すべての事物はユニーク(独自)な識別子をもっていなければならないということである。(しかし)Web2.0のセンシビリティがわれわれに教えてくれるのは、我々はセンサーのごたまぜのデータを介して事物のインターネットに到達することができるということだ。こうしたセンサーデータは、ボトムアップ式に機械学習的なアプリケーションに貢献し、次第により多くのデータを意味づけるようになるだろう。

〔注〕(事物のインターネット化の例):
 スーパーマーケットの棚に並んでいるワインが事物のインターネット化に参加するには、RFIDタグは必要ない。それには、単にあなたがワインのラベルをケータイで写真に撮るだけでいいのだ。あとは、あなたのケータイ、イメージ認識装置、サーチ、感覚的ウェブ、GPSなどが(自動的に事物のインターネット化を)やってくれるわけだから。
 
・revelation (今までわからなかったことを)明らかにすること、暴露、発覚
〔原文〕As more and more of our world is sensor-enabled, there will be surprising revelations in how much meaning - and value - can be extracted from their data streams.
〔訳〕われわれの世界がますますセンサーで探知できるようになるにつれて、どれほど多くの意味(そして価値)がそうしたデータ・ストリームから抽出されるという新たな発見が生まれることだろう。

<リアルタイムの台頭:集合的精神>
(The Rise of Real Time: A Collective mind)

・cascade 小滝;階段状に連続する滝
〔原文〕Real-time search encourages real-time response. Retweeted "information cascades" spread breaking news acrosss Twitter in moments, making it the earliest source for many people to learn about what's just happened.
〔訳〕リアルタイムの検索はリアルタイムの反応を促進する。リツイートされた「情報の奔流」はツイッターを通じてあっという間にニュース速報を拡散させ、多くの人々によって、いま起きたばかりの出来事を知るための最初の情報源となる。

・infuse (人・心を)満たす
〔原文〕 Real time is not limited to social media or mobile. Walmart realized that a customer purchasing an item is a vote, and the cash register is a sensor counting that vote.  Real-time feedback loops drive inventory. WalMart may not be a Web2.0 company, but they are without doubt a Web Squared company: one whose operations are so infused with IT, so innately driven by data from their customers, that it provides them immense competitive advantage.
〔訳〕リアルタイムはソーシャルメディアやモバイルだけに限られているわけではない。ウォルマートは顧客の購買行動が「投票」であることに気づいた。そして、キャッシュレジスターが投票を数えるセンサーになっているのだ。リアルタイムのフィードバック・ループが品揃えに反映される。ウォルマートはWeb2.0の企業ではないかもしれないが、間違いなくウェブ2乗の企業である。そのオペレーションはITに満ちあふれている。本質的に顧客からのデータによって動いているので、彼らにとっては巨大な競争上の優位性を提供しているのだ。

<結論:大切なもの>
(In Conclusion: The Stuff That Matters)

・leverage (~に)影響力を行使する
〔原文〕 2009 marks a pivot point in the history of the Web. It's time to leverage the true power of the platform we've built. The Web is no longer an industry unto itself - the Web is now the world.
〔訳〕2009年はウェブの歴史の中でも画期的な位置を占める。それはわれわれが築いたプラットフォームの力を行使する時だ。ウェブはもはや一業界のものではない。ウェブは今や世界そのものなのだ。

〔終わり〕