宮田加久子著『きずなをつなぐメディア-ネット時代の社会関係資本』NTT出版〔2005〕
(レビュー)

 本書は、ソーシャルネットワーク論ないし社会心理学の視点から社会関係資本を分析したものである。この立場からみると、社会関係資本は「個人間や組織間のネットワークに埋め込まれた資源」とみなされる。同じ立場から社会関係資本を分析した研究者として、ナン・リン(Nan Lin)があげられている。彼によると、社会関係資本には、①社会構造に埋め込まれた資源(構造的側面)、②個人による資源へのアクセス可能な社会的ネットワークを持つこと(機会的側面)、③目的を持った行動における個人による資源の利活用(行動志向的側面)という3つの要素が含まれている。②は①によって規定され、③は②によって規定されるという関係がある。


 本書では、社会関係資本を「信頼や互酬性の規範が成り立っている網の目状の社会ネットワークとそこに埋め込まれた社会的資源」と定義している。この定義には、3つのキー概念が含まれている。第一に「社会ネットワーク」(人、集団などの相互間で形成される網の目状の関係性の広がりの総体)、第二に「信頼」(特定他者に対する個別的信頼と一般他者に対する一般的信頼からなる)、第三に「互酬性の規範」(一般化された互酬性と、何かをしてくれた人にお礼をする特定的互酬性からなる)である。


 本書では、①インターネット(とくにオンラインコミュニティ)への参加が社会関係資本の形成にどのような影響を及ぼしているのか(第2章)、②オンラインコミュニティにおいてどのような資源が提供されているのか、とくに橋渡し型の社会関係資本の特徴である一般化された互酬性の規範と信頼がどのように形成されているのか(第3章)、③インターネットで補完される社会関係資本の効果(個人レベルでは精神的健康と消費者行動、社会レベルでは市民参加とエンパワーメント)はどのようなものか、意図せざる負の効果としてのデジタルデバイド(社会関係資本の格差拡大)の可能性はどうか(第4章)、が先行研究のレビューと独自調査研究を通して詳しく検討されている。それぞれについて、簡単に紹介しておきたい。


<インターネットでつながるきずな>


 インターネットの利用と対人関係の関連についての従来の研究をレビューしてみると、「インターネットの利用が対人的接触を減じ、社会ネットワークを縮小・弱体化する」という結果と、「対人的接触を増大させ社会ネットワークを維持・補完する」という相反する知見がみられる。このうち、前者の研究では、その理由として、①インターネット利用が他の活動時間と競合するため、インターネット利用が他のソーシャルな活動を代替している、②インターネットではソーシャルなサポートが得られにくいため、電話など他メディアでの相互作用を阻害する場合には既存の社会ネットワークの紐帯が希薄化し、また強い紐帯を築きにくい。逆にフレーミングなど社会ネットワークを阻害する恐れもある、③インターネット利用がストレスとなって、それが人々を抑圧して相互作用から遠ざけ、対面的接触の減少によって抑鬱と孤独感が高まる、などが指摘されている。しかし、これらの先行研究にはいくつかの問題点があると著者は考える。そこで、本書では、社会ネットワークの形成と関わりの深いインターネットサービスとして、「交流型」(電子メール)と「コミュニティ型」(オンラインコミュニティ)に注目し、社会ネットワーク形成との関わりについて実証的に検討を加えている。


 まず、電子メールについてみると、電子メールは遠く離れたネットワークを維持する反面、身近なネットワークを縮小させるかもしれない、という知見が得られている。PCメールと携帯メールの利用度と社会ネットワークとの関連をみると、「電子メールであっても、PCメール送信数は社会ネットワークの規模や多様性と、携帯メール送信数は強い紐帯の数と関連があることがわかった」という。結論として、「少なくともPCメールの利用が弱い紐帯も含めたネットワークの規模や多様性を維持するのに役立っていることが明らかである。それに対して、携帯メールは近くにいてサポートを提供してくれるような強い紐帯をつなげる役割を果たしていることが推測される」としている。これは納得のいく知見である。


 次に、オンラインコミュニティについてみよう。ここでオンラインコミュニティとは、「旅行、スポーツ、地球環境、ゲーム、仕事、健康管理などのように、利用者が共通の関心テーマのもとに集い、コミュニケーションする社会空間(場)であり、その場では利用者が自主的に参加し相互作用し、意見交換や議論を行っている」と定義されている。具体的なサービスとしては、電子掲示板、メーリングリスト、チャット、ブログ、オンラインゲーム、SNSなどがある。著者は、オンラインコミュニティの中の社会ネットワークについて、①「開放性」という構造的次元、②「紐帯の強さ」という関係性の次元、の両面から検討を加えている。


 オンラインコミュニティにおける社会ネットワークの開放性とは、新規参加者によってネットワークが新しく追加され拡大していくことを意味している。各種調査の知見によれば、「インターネット利用者のなかでも、オンラインコミュニティで社会ネットワークを形成している人の割合は低いものの、その新しい友人・知人への評価から考えて、価値観等を共有できる人々の間で弱い紐帯を作るのにオンラインコミュニティが役立っていることがわかる」という。また、オンラインコミュニティ形成のプロセスをみると、「オンラインコミュニティは、全体として文字表現の工夫をしながら、自己開示をすることで参加者のアイデンティティを形成し、さらにはコミュニティ固有のアイデンティティの形成を通じて幅広い社会ネットワークを作り上げ、その間で望ましい社会的雰囲気を維持するための規範を創造していく」という。社会ネットワーク形成を左右する個人的要因についても検討がなされている。それによると、若年層ではインターネットで新しいネットワークを形成する可能性が高いこと、外向的な性格の人ほど、対人関係形成に積極的でかつそのスキルも高いので、オンラインコミュニティを通じて社会ネットワークを形成しやすい、などの知見が紹介されている。その結果、「社会性の高い人々については、オンラインコミュニティで書き込みを行うほど新規のネットワークが形成され、それが日常生活空間での豊かな社会ネットワークに追加されるので、オンラインコミュニティに積極的に参加するほど全体のネットワークが拡大するという現象がみられる。それに対して、社会性の低い人々は、オンラインコミュニティでの書き込みが多いほど、日常生活空間では形成されにくかったネットワークを形成できるので、オンラインコミュニティへの参加が社会ネットワークを補完するという現象がみられる」と述べている。


 紐帯の強さという点をみると、オンライン上でのネットワークは基本的には弱い紐帯だが、これを強い紐帯に変えていく場合もある。第一に、接触時間が長いほど親しい関係になるという傾向がある。第二に、自己開示が増加すると紐帯が強化され、道具的課題志向的な関係から友人関係へと変化する傾向がみられる。第三に、オフ会などの対面的コミュニケーションを利用するなど、メディアの複合的利用が強まるほど、紐帯は強いものになる。オンラインコミュニティでは、参加者が相互作用を繰り返すうちに、互いに強い紐帯を形成し、参加者の同質性が高まるという傾向がみられる。この同質化傾向は、コミュニケーションを促進するというプラスの効果と同時に、排他的になるというマイナスの効果も内包している。


<オンラインでの互酬性の規範と信頼の形成>


 この章では、オンラインコミュニティの中で共通の目標をめざす自発的協力がどのように行われているか、互酬性の規範は協力の促進にどのような影響を持っているかを検討している。また、その過程でオンラインコミュニティの参加者やそこに埋め込まれている資源が信頼できるかを参加者がどのように判断し、信頼がどのように醸成されているかを分析している。また、このようなオンライン上の互酬性の規範や信頼が日常生活空間に拡大する可能性と限界についても論じている。


 オンラインコミュニティでは、社会的ジレンマ(全員協力が最善策とわかりながら、結果として全員非協力になるという事態)が、「ただ乗り」という形で生じやすい。こうした社会的ジレンマを防ぐ要因として、著者は①一般化された互酬性への期待、②オンラインコミュニティへの愛着や関与、③他者への共感的関心、④アイデンティティの表出、⑤自己効力感、⑥コンサマトリー性の動機づけをあげている。このうち、社会関係資本と関連が深いのは、①の「一般化された互酬性への期待」(パットナムのいう橋渡し型の社会関係資本)である。具体的な事例として、著者は「消費者間のオンラインコミュニティ」と「オンライン・セルフヘルプグループ」について、検討している。消費者間オンラインコミュニティでは、「書き込みを通じて他の人と情報を共有したことで自分も得をするから」という回答が約半数あり、全体として一般化された互酬性の規範意識が浸透していることがわかった。オンライン・セルフヘルプグループ(ここでは育児サポートのSHG)参加者への調査が行われている。ここでも、「依然このフォーラムのメンバーが私にサポートを与えてくれたので今度は私が役立ちたいと思うから」と答えた人が約半数と多く、オンラインコミュニティ内部での一般化された互酬性の規範意識が高いことが示された。


 次に、オンラインコミュニティにおける信頼の特質と形成についての検討に入る。ここで著者は、信頼に関する先行研究の成果を整理した上で、オンラインコミュニティでの信頼について、オンラインコミュニティに参加する特定個人が信頼できるかどうか、という「特定的信頼」、ある特定のオンラインコミュニティに参加している人々が信頼できるかどうかという「カテゴリー的信頼」、人間一般を信頼するという「一般的信頼」に分けた上で、それぞれの信頼がオンライン空間でどのように判断、形成されるかを検討している。そこには、①特定の参加者間でのコミュニケーションを繰り返すことを通じて相互信頼の期待を形成する、というコミットメント形成による方法と、②特定他者や特定のオンラインコミュニティについての情報を集めて、それに基づいて信頼するかどうかを判断する、という情報を利用する方法のふたつがある、と著者は指摘している。オンラインコミュニティにおいて「信頼」が重要なのは、「インターネット上では、一般的な信頼を形成することによって、個人にとっては従来にない利益が得られる機会を増やし、集団では協力行動を促進し、社会においては効率化を進めることができる」からである。その意味で、オンラインコミュニティにおける「評判」システムは、信頼を判断し、形成する上で重要な役割を果たしている。評判という情報に基づいて他者の信頼性を判断しているコミュニティでは、橋渡し型の社会関係資本が形成されやすい。そこでは、「ネットワーク内部にある特定個人の実績についての評判情報が豊富に循環していて、それに容易に接することができると、その特定個人に対する期待を発展させ、それが信頼を形成するというメカニズムが働く」という。それが橋渡し型の社会関係資本を形成するのである。

 こうしたオンラインコミュニティ上での社会関係資本形成は、日常生活での一般的信頼度や社会関係資本にも貢献するだろうか?著者が山梨県で実施した調査によると、オンラインコミュニティに書き込みをする人ほど一般的信頼が高いという傾向が見出された。また、子育て支援オンラインコミュニティへの参加者への調査によると、オンラインコミュニティでサポートを受けた経験が、日常生活空間での他者に対するサポートの提供を促すという結果が得られたという。

<社会関係資本が変える暮らし、地域、社会>


 著者は最後に、オンラインコミュニティにおける社会関係資本の形成が、人々の暮らしや社会に及ぼす効果、影響について検討を加えている。ここでは焦点を絞って、肯定的な効果として、参加者個人の精神的健康(ミクロレベル)とエンパワーメントへの効果(マクロレベル)、および否定的な効果として、社会関係資本の悪用とデジタルデバイドの拡大について検討されている。

 オンラインSHGコミュニティに関する調査では、次の3つの点が明らかになったという。すなわち、①オンラインとオフラインのサポートが相互作用的に精神的健康を促進するという効果がみられた。②オンラインSHGからのサポートの受領は自尊心や家族関係満足度には効果があるが、直接抑鬱を抑制する、低減するという効果は低く、その効果は限定的であった。③オンラインSHGへの関与によってオンライン・サポートの受領の効果は異なっていた。オンラインSHGで社会関係資本を活用してサポートを受けることが精神的健康を増進することが確かめられたが、その理由として著者は、①オンラインコミュニティへの参加を通じてコミュニティ意識が醸成され、孤独感が低減されること、②とくに他の人に打ち明けにくいスティグマを抱えている人は、オンラインコミュニティ上での自己開示によってストレスが低減されること、③グループ内で手本になる人を見つけ出し、その人の考え方や行動を模倣することにより、参加への動機づけを高めたり、問題への対処法を学ぶこと、をあげている。ただし、オンラインSHGに限らず、一般のオンラインコミュニティを含めて、知らない人から受けるサポートの有効性には限界と問題点があることも指摘されている。

 次に、社会関係資本のマクロレベルの効果として、エンパワーメントが取り上げられている。エンパワーメントとは、著者によれば、「パワーを持たない人々が力をつけて連帯して行動することによって自分たちで自分たちの状態・地位を変えていこうとする、きわめて自立的な行動」のことである。具体的な実証例として、ここでは消費者間オンラインコミュニティおよびオンラインSHGでのエンパワーメントが取り上げられている。消費者間オンラインCMの事例としては、「東芝事件」が取り上げられている。オンラインSHGでは乳がん患者のオンラインSHGが分析されている。

 最後に、社会関係資本の意図せざる負の効果についても検討されている。具体的には、①結束型社会関係資本の悪用(自殺掲示板の利用など、反社会的な目的で利用されるケース)、②結束型社会関係資本の持つ負の効果(部外者の排除、ただ乗り、個人の自由の束縛など)、③新たなデジタルデバイドの発生(インターネットを利用して社会関係資本を活用できる人々はますます豊かな社会関係資本を築き、利用できない人々との間の格差が拡大するという悪循環)などがある。


<社会関係資本の豊かなインターネット社会を目指して>


 最後の章で、著者は、社会関係資本を豊かにするための提案を行っている。それは、「メディア・リテラシー育成の必要性」(メディア評価能力、メディア表現能力、メディア利用スキルの涵養)、「水平なネットワーク構造を持つ集団の必要性」(人々の自発的な参加によって成り立っている水平な社会ネットワーク構造を持つ集団の形成と維持)、「制度や技術の必要性」(政府や自治体でインターネットの社会関係資本涵養機能と効果を理解した上で、それを促進するための支援制度づくり、P2Pなどの新しい技術の開発)、の3つである。そして最後に、「今後、ますますインターネットは広い範囲に普及し、さらにその技術も進歩すると思われるが、公共性を高めるための社会関係資本をどのようにインターネットが支援していくことができるのかという視点を持ち続けることの重要性」を指摘している。


 以上が本書の概要である。社会関係資本という概念を手がかりとして、インターネットとりわけオンラインコミュニティ(現在でいうソーシャルメディア)が人々をつなぐメディアとして、どのようにして豊かな社会を築いてゆくかを、膨大な文献と調査分析を通して論じた、読み応えのある力作である。社会関係資本とインターネットの関係に興味を持たれる方は、パットナムの『孤独なボウリング』、ナン・リンの『ソーシャル・キャピタル』とともに、ぜひ本書を手にとって、詳しい内容をご覧いただきたいと思う。


 → 『きずなをつなぐメディア-ネット時代の社会関係資本』