先日のブログで紹介した、Warscauer氏の『技術と社会的包摂』という本の中で、インドのスラム街に設置された「壁の穴」のパソコンによる教育の試みが、社会的包摂を伴わないという点で、「失敗例」として取り上げられていた。しかし、関連ウェブサイトを調べてみると、必ずしも「失敗」に終わったわけではないようだ。

 hole-in-the-wall.comというウェブサイトをみると、この社会実験について、詳しい情報が提供されている。この実験は、1999年にインドのニューデリーで開始された。発展途上国の都市部のスラム街に、壁に埋め込まれたパソコンを設置し、子どもたちが自由にパソコンを使って自己学習できるシステムだ。「最小介入教育」という理念で、教師やインストラクターが介入せず、子どもたちが自由に使い、互いに使い方を教え合うという形で教育的効果を上げることをめざした、一種の社会実験だ。ふだんパソコンに触れる機会のないスラム街の子どもたちにとっては、貴重な機会を提供するもので、一定の成果をあげているようだ

 この「壁の穴」プロジェクトは、ニューデリーで始まったが、その後、他の都市や他の途上国でも相次いで設置され、スラム街の子どもたちのコンピュータ教育に貢献しているようだ。その効果を測定するための調査も(2000年から2004年にかけて)行われている。その結果をみると、教育効果があるとする回答が8割以上と高く評価されていることがわかる。「壁の穴」パソコンを利用した子どもたちは、他のグループと比べて、学業成績も向上しているという結果も得られている。こうしたデータを見る限り、Warscauer氏が2000年の時点でフィールド調査した結果とはかなり違っているようだ。コンテンツも、英語だけではなく、ヒンズー語も取り入れられ、教育用ゲームなども採用されているようだ。それが教育効果の向上につながっているのかもしれない。

 ただし、逆にいえば、発展途上国では、いまだに学校や家庭でパソコン教育を十分に受けられない子どもたちが多数いるという、「グローバルデバイド」が解消されていない現実があることを改めて思い知らされる。

※オスカー賞を取った Slumdog Millionaireという映画は、このhole-in-the-wall のプロジェクトから着想を得て作られたものだといわれている。 

 → 「壁の穴」プロジェクトの紹介動画