電子書籍の衝撃 大学で「メディア・エコロジー」という科目を担当している関係で、メディアを「エコシステム」(生態系)の視点から捉える見方をする本とか論文があると、思わず注目してしまう。といっても、なかなか「メディア・エコロジー」の全体像がつかめず、四苦八苦しているのが実情なのだが、、、。

 電子書籍についても、エコシステムの観点から捉えた本はないものかと思っていたら、佐々木俊尚さんの『電子書籍の衝撃』(2010)という本が、それにぴったりの内容だったので、共感を覚えたのであった。


 キンドルやiPadのような電子ブックは、単なる単体のデバイスではありません。デバイスとキンドルストアという販売サービス、それに購入した電子ブックを管理するシステムが一体になったネットワークです。
 こうしたネットワークが進化していくと、そのプラットフォームを中心にさまざまなビジネスが立ち上がり、他社が開発したアプリケーションも次々に登場し、そしてネットワーク全体がますます繁栄していくことになります。
 このようにあるビジネスの基盤を中心にして、そこにさまざまな企業が参加し、さらには利用者を含めて全体が栄えていくような状態を、生物学でいう「生態系」になぞらえて、エコシステムと呼びます。電子ブックは単体のデバイスではなく、このような大きなエコシステムを作り出していく可能性を秘めているのです。(p.71)

 どうやら、「エコシステム」という言葉は、IT業界では、一種のジャーゴンになりつつあるのかもしれない。そういえば、ソーシャルメディアに関する本でも、「エコシステム」という言葉を最近ではよく見かけるようになった。私の場合は、それを学問的な用語として位置づけたいと思っているが、上の引用文は、その意味でも参考になる。ここでは、
(1)デバイス(キンドル、iPad、リーダーなど)
(2)プラットフォーム(販売サービス=アマゾン、iTunes,グーグルなど)
(3)電子ブック管理システム(デジタル著作権などの管理)
(4)アプリケーション(関連するソフトウェア)
(5)電子書籍の作者(著者、編集者、出版社)
が一体となったものがエコシステムであり、ユーザーがこの中で「読書生活」することが、システムの発展と存続にとって重要な要素となる。最終的には、ユーザー(読者)がこのエコシステムを快適だと感じ、そこで生活してくれる(情報生活する)ことが、電子書籍というエコシステムの持続可能性(サステナビリティ)の鍵を握っていることは確かだろう。音楽のジャンルにおけるiTunes-iPodを中心とするエコシステムは、まさしく、ユーザーからの絶大な支持を得て、繁栄し続けているエコシステムの一つといえるだろう。

 グーグルも、「グーグルエディション」というプラットフォームで、電子書籍の販売を開始するというニュースが2010年に流れた。それによると、「PCやスマートフォンなどWebブラウザを搭載したさまざまな端末で購入・閲覧でき、特定の端末に依存しないのが特徴。Google以外のサイトから購入できる仕組みも提供予定で、「オープンなプラットフォーム」を売りにしている」ということだが、日本では、いまだ実現はしていないようである。米国では、すでにGoogle e-bookstore(2010年12月6日~)というプラットフォームで電子書籍の販売を開始している(New york Timesの記事参照)。グーグルはこの新しい電子書籍販売サービスを「オープン・エコシステム」と称しているのが興味深い。アマゾンとともに、日本上陸がいつになるのか、楽しみなところである。アマゾンについては、噂の段階にすぎないようだが、今年の4月から日本での販売を開始するとのニュースも伝わっている。

米アマゾン、今年4月に電子書籍で日本参入 Kindleシリーズを同時投入か(ガジェット速報)
電子書籍、やはり真打ちは Amazon Kindle か

 日本では、「再販制度」と「取次店」という日本に独自の制度があるために、電子書籍の普及が遅れているという感が否めない。アマゾンやグーグルの日本進出は、そうした隘路を突破して、日本における電子書籍のエコシステムを大きく変えるきっかけとなるかもしれない。これから数ヶ月、電子書籍マーケットの行方から目を離せない状態が続く。

※「エコシステム」という用語は、野村総研編『2015年の電子書籍』(2011年)の中でも使われている。その部分を引用しておきたい。
一度どちらかのOSを選んだアプリケーション開発者、コンテンツホルダーは、得られる収益がそのOSの趨勢(そのOSを搭載した端末のユーザー数やユーザーの質)の影響を受けざるを得ないため、ある程度アップル、グーグルと一蓮托生の関係となる。この構図は自然界におけるエコシステム(生態系)にたとえられる。アップルとグーグルはそれぞれ単体ではなく、一蓮托生関係にあるアプリケーション開発者、コンテンツホルダーを含めたiOSエコシステムとAndroidエコシステムのエコシステム同士で競争を行っているとも言える。(p.54)。

 なお、日本の電子書籍マーケットで大手出版社を中心につくっている業界団体は、「日本電子書籍出版社協会」(電書協)(2010年発足)である。この団体が運営する電子書籍サイト(アプリ)は、「電子文庫パブリ」である。現在電書協には43社が加盟している(2011年2月現在)。パブリはiPhone、iPad、アンドロイド端末に対応している。私のiPhone、iPadにも「パブリ」をインストールしてあり、すでに、文庫など5点を購入している。使い勝手は悪くない。あとは、収録書籍数を大幅に増やしてもらいたい。また、価格もいまよりもっと下げてほしいと思っている。アマゾンやグーグルが日本に上陸する場合、電書協とどのような契約を結ぶのか、興味深いところだ。

 電子書籍の最新動向については、次のニュースサイトを参照されたい:

ebook user (IT Media)