情報は、なんらかのメディアを媒介することによって、われわれによって知覚、利用可能なものになり、それゆえ、われわれにとって有用なもの、あるいは有害なものとなる。

  その際、メディア開発者(技術、アーキテクチャ)、メディア販売者(マーケット、利害関係)、メディア利用者(ニーズ、リテラシー)、メディア規制者(法制度、規範)の4つの構成要素たる「メディア主体」が、メディア・エコシステムを作り上げている。これらの構成要素の間の相互作用を通じて、情報メディアは進化し、また、個人や組織に大きな影響を及ぼす。このようなメディア観を、ここでは「メディア構築主義」と呼ぶことにしよう。この4つの構成要素を図解すると、次のようになるだろう。 

media-ecosystem

























メディア開発者(情報技術、アーキテクチャ)


 第一の要素は、メディアの生成を可能にする情報技術またはアーキテクチャと呼ばれるものである。現代の情報社会においては、デジタル情報技術やアーキテクチャがこれに相当する。

 デジタル情報技術が従来の技術と大きく異なる点は、

①情報の流れが、送り手から受け手への一方向的なものではなく、受け手(ユーザー)からも情報発信されるようになり、双方向的(インタラクティブ)な性格をもっているということ、
②情報がデジタル化されることによって、より高精細度の情報の流れが生じるということ、
③情報の流れをコントロールする技術がより高度なものとなるということ、
④高速、同時、非同期的な情報伝送技術により、時間的、空間的な制約が大幅に克服されるということ、などにある。

メディア提供者(マーケット、利害得失)


 情報産業では、一定のプラットホーム上において、さまざまな情報サービスが提供されている。インターネットでは、電子商取引を通じて、ありとあらゆる商品やサービスが提供されている。また、マスメディア企業では、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌などの情報を定期的にオーディエンス向けに提供している。インターネット上でも、YouTubeやニコニコ動画などのネット動画配信サイトや、ニュースサイトなどを通じて、マスメディアと同じようなコンテンツが提供されている。

 携帯電話会社では、さまざまなケータイ関連の情報サービスを提供している。これらの企業の間には、激しい競争と提携関係が展開されており、プラットホーム上の各種サービスの間には、相互補完、代替などの相互関係がみられる。こうした競争や提携、共存共栄関係などは、市場原理(需要と供給、費用と効果など)にもとづいて展開され、その中で環境にうまく適応したものだけが生き残る。旧メディアは、生き残りをはかるために、しばしば独自の「ニッチ」を開拓することによって生存をはかることができる。例えば、テレビの登場とともに、ラジオや映画は衰退に向かったが、ラジオでいえば深夜族やドライバーなどを新たなターゲットとして、生き残りをはかっているし、映画は、DVDやブルーレイやテレビでの副次的な利益を得ることによって生き残りをはかっている。

メディア利用者(情報行動)


 三番目の要素は、メディア利用者すなわちユーザーや視聴者、読者などである。メディア利用者は、商品やサービスの購入、情報コンテンツの利用に関して一定の情報ニーズをもち、それに適合するようなメディアへの接触、消費を通じて「利用と満足」を得る。デジタル・メディアに関しては、従来よりもリッチなコンテンツ(高精細な映像、マルチメディア的なコンテンツなど)に対するニーズを強く持ち、インターネットやデジタル・テレビ、DVD、ブルーレイなどのメディアを通じて、情報ニーズを充足させる。最近では、対人関係を緊密化するために、ソーシャルメディアに対するニーズが強まっており、従来の一方向的なマスメディアから、よりインタラクティビティの高いインターネットやスマートフォンなどに利用がシフトする傾向がみられる。

 また、従来のマスメディア消費においては、オーディエンスはもっぱら情報を受けとるだけの受動的な「受け手」であったのが、インターネットやケータイの普及とともに、ユーザー自身が情報発信の主体となるようなメディアコミュニケーションが広がっている。メディア・エコロジーの視点からみると、インターネットやケータイ、スマホの利用が、在来型のマスメディア利用を機能的に代替するようになっている。その一方では、テレビを見ながらネットやスマホをチェックしたり、ネット配信の動画をテレビ画面で見るなど、「クロスメディア」的な情報行動が広がっている。

 こうした新しいメディア利用の普及は、1980年代以降生まれの、いわゆる「デジタルネイティブ」において特に顕著にみられる新しい現象である。デジタルネイティブ達は、生まれたときからデジタルメディアに慣れ親しんでおり、旧世代のメディア利用者に比べると、「情報リテラシー」(情報を処理するスキル)が全般的に高いという傾向がみられる。

メディア規制者(法制度、規範・倫理)


 最後の構成要素は、メディアの活動や利用を規制する主体、すなわち、「メディア規制者」である。大きく分けると、情報メディアを規制する法制度と、法制化されてはいないが、メディアの開発、提供、利用を個人の内面から規制したり、集団的な圧力によって外部から規制する「規範」や「マナー」とから成っている。デジタル・メディアにおける法規制の具体例としては、放送・通信制度や法令、個人情報保護法、電子商取引規制、知的財産法、刑法による情報の保護ないし規制、などがある。

 とくに、インターネットというメディアにおいては、膨大なコンテンツが日々受発信されており、個人情報の漏洩、テロやポルノといった有害情報の流通、匿名掲示板などを使った悪質な書き込みによる犯罪行為、などが頻繁に起きており、これらに対する法規制の整備がはかられている。 メディアを規制する主体は、法制度だけではない。国民の一人一人が教育などを通じて内面化した規範やマナー意識をもつことも重要である。具体例としては、インターネットの掲示板やSNSに書き込むときに守るべき規範やマナー、公共空間で携帯電話を使用するときに守るべきマナーなどがある。