デジタルネイティブとは?

 デジタルネイティブとは、生まれながらに、デジタルメディアに親しんでいる若い世代のことをさしている。1980年代以降に生まれた人たちのことをいうのが一般的である(プレンスキーら)。橋元良明らは、1976年前後に生まれた「76世代、86年前後に生まれた「86世代」、96年前後に生まれた「96世代」を区別している。 木村忠正は、1981年以降に生まれた世代をデジタルネイティブとし、4つの下位世代に分解して、その特徴を詳しく検討している。 プレンスキーによると、デジタルネイティブには次のような特徴があるという。

  • 複数のタスクを同時に処理できる
  • 情報を猛スピードで受けとることに慣れている
  • テキストよりも先にグラフィックを見るのを好む
  • ランダムに情報をアクセスすることを好む
  • インターネットにつながっているときが好き
  • 仕事よりもゲームを好む

デジタルネイティブ度の測定

 これらの先行研究を参考に、「デジタルネイティブ度」を測定するための質問項目を作成してみた。これらの項目について、「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人の比率を計算してみると、次のような結果が得られた。調査対象は、デジタルネイティブの世代である。
 
ネイティブ

 グラフをみると明らかなように、同じデジタルネイティブの若者といっても、回答率のばらつきが大きくみられ、ひとくくりに「デジタルネイティブ」と決めつけることはできない。また、この尺度自体、一次元的なものではなく、多次元的な尺度であることがわかった。因子分析してみたところ、4つの因子に分かれているという結果が得られた。

 第1因子は、「ブログやSNSにコメントをつける」「SNSやブログを頻繁に更新している」「カメラで撮影した写真や動画は、写真・動画共有サイトにアップロードしている」の3項目で因子負荷量が高い。これは「情報発信」因子と名づけることができるだろう。第2因子は、「テレビや新聞で気になったことがあると、すぐにネットでチェックする」「関心のある最新の情報をつねにネットでチェックしている」「テレビを見ながらスマホを利用したりすることが多い」の3項目で因子負荷量が高い。これは、「マルチタスク」因子と呼ぶことができるだろう。第3因子は、「ネットでクレジットカード決済をするのに抵抗を感じない」「いろんなクラウドサービスを利用している」「新しいスマホやタブレットが出るとすぐに欲しくなるほうだ」で負荷量が高い。これは、「イノベータ度」と呼ぶことができよう。第4因子は、「メールやLINEの通知が来ると、すぐに返信するほうだ」「メールやチャット、LINEで返信がすぐにこないと不安になるほうだ」の2項目で因子負荷量が高い。これは、「スピード」因子と名づけることができるだろう。こうしてみると、プレンスキーの指摘するデジタルネイティブの特徴をある程度反映した結果と考えることができるだろう。タプスコットは、デジタルネイティブの行動基準の一つとして、「イノベーター」性をあげており、これは本調査の結果とも一致する。

 このうち、主成分分析の第1因子で負荷量の比較的高かった9項目をもとに、「デジタルネイティブ度」スケールをつくってみた(α係数=0.78)。尺度構成項目(リッカート4点)は、次のとおり:

・新しいスマホやタブレットが出るとすぐに欲しくなる方だ
・テレビを見ながらスマホを利用したりすることが多い
・テレビや新聞で気になったことがあると、すぐにネットでチェックする
・関心のある最新の情報をつねにネットでチェックしている
・いろんなクラウドサービスを利用している
・カメラで撮影した写真や動画は、写真・動画共有再度にアップロードしている
・出かけたり、買い物をしたりするとき、まずネットで検索する
・ブログやSNSにコメントをつける
・SNSやブログを頻繁に更新している

 この尺度とFacebook、Twitter、LINEの利用頻度との相関を計算してみたところ、いずれも有意な正の相関がみられた。つまり、デジタルネイティブ度が高い人ほど、Facebook、Twitter、LINEの利用頻度が高くなるという関連が認められたのである。 言い換えると、デジタルネイティブ度の高い人ほど、SNSを活発に利用しているというユーザー像が鮮明になったといえる。

 次に、Facebookでの情報開示度を従属変数とし、Facebook利用頻度、デジタルネイティブ度、性別、年齢を独立変数とする重回帰分析を行ったところ、もっとも大きな有意な偏回帰係数を示したのは、デジタルネイティブ度であった(β=0.382)。Twitterでの情報開示度を従属変数として、Twitter利用頻度、デジタルネイティブ度、性別、年齢を独立変数とする重回帰分析を行ったところ、もっとも大きな有意の偏回帰係数を示したのは、やはりデジタルネイティブ度であった(β=0.301)。いずれの場合にも、SNS利用頻度は有意な影響を示していなかった。つまり、SNSの利用頻度よりも、デジタルネイティブ度のほうが、SNSでの情報開示度に対し、大きな関連をもっていたのである。

 このように、「デジタルネイティブ度」は、SNS利用と強い関連をもっているが、同じ若者でも、デジタルネイティブ度の分布はばらついており、若者層がすべてデジタルネイティブな特性を示すとは限らないということも確認された。このことは、近年のデジタルネイティブに関する研究でもしばしば指摘されているところである。これについては、稿を改めて紹介したいと思っている。

 デジタルネイティブ度を測定するための尺度については、海外でもいくつか研究がなされているが、まだ標準的な尺度はつくられていないようだ。今後の研究課題の一つといえるだろう。
デジタルネイティブに対する懐疑論
 そもそも、デジタルネイティブという「世代」があることについては、懐疑論的な見方も少なくない。例えば、Bennet et al.( 2008)やSelwyn(2009)は、デジタルネイティブに関する文献をレビューして、現代の若者をひとくくりに「デジタルネイティブ」と呼ぶのは正しくないとしている。同じ若者世代でも、ICTの利用に長けた者とそうではない者がおり、年齢集団、社会経済的属性などと密接な関連をもっているという。つまり、デジタルネイティブ度には個人差があるということだろう。したがって、デジタルネイティブ度によってSNS利用がどう異なるかを調べることには一定の妥当性と意義があるのではないだろうか。

参考文献:
Bennet, S et al., 2008, "The 'digital natives' debate: A critical review of the evidence", British Journal of Educational Technology, Vol. 39 (5)
Hargittai, Eszter, 2010, "Digital Na(t)ives? Variation in Internet Skills andd Uses", Sociological Inquiry, Vol 80(1).
Selwyn, Neil, 2009, "Digital native - myth and reality, Aslib Proceedings: New INformation Perspectives, Vol.61, No.4, PP.364-379.