いま、こんなタイトルの論文を準備中です。来年2月頃に出る学部紀要に投稿予定です。おそらく、これが私の現役中の最後の論文になるでしょう。
いまから十数年前になりますが、「『情報』という言葉の起源に関する研究」という拙い小論を、やはり同じ学部紀要に掲載したことがあるのですが、あのときは、十分な先行研究のレビューも行わず、恥をかいてしまいました。
あれから十数年、「情報」の言葉に関する起源は、小野厚夫氏らの研究によって、明治6年のフランス陸軍の教練書の日本語訳だったことが明らかにされ、論争にはピリオドが打たれています。当初の「森鴎外造語説」は消え去ってしまったようです。くわしくは、次の論文(小野厚夫氏)をごらんください。
・情報という言葉を尋ねて⑴
・情報という言葉を尋ねて⑵
・情報という言葉を尋ねて⑶
確かに、明治6年に酒井少佐の周辺が「情報」という言葉を作ったのは、ほぼ事実といってもいいでしょう。しかし、森鴎外が、明治34年に、ドイツ語の「Nachricht」を「情報」と訳したことの意義も忘れてはならないのではないかと思います。
そこで、先行研究を踏まえた上で、「情報」初出文献の原本に立ち返って、「情報」という言葉が生まれた経緯を改めて検証したいと考え、いま関連資料を渉猟中です。
その裏には、意外と知られざる謎が含まれているように思われます。
たとえば、有名な森鴎外訳の『大戦学理』(あるいは『戦論』)には「情報」という言葉が頻出する、次のようなくだりがあります。
六 戦の情報
情報トハ敵ト敵國トニ関スル我智識の全体ヲ謂フ是レ我諸想定及ヒ諸作業ノ根底ナリ試二比根底ノ本然ト其ノ不確実ニテ変化シ易キコトトヲ想ヘ戦ト云フ者ノ構築ノ如何二危険ニシテ破壊シ易ク又戦者ノ此破壊ノ為ノニ墜来ル土石ノ下ニ埋メラレ易キカヲ知り難カラサルベシ兵書ヲ読ムニ或ハ明確ナル情報ニ非デハ信ズルコト勿レト云ヒ或ハ常ニ情報ノ妄りニ信ズベカラサルモノナルコトヲ思へト言フコトアリ
これは、森鴎外自身が訳出した部分ですが、同じ『大戦学理』でも、あとの方は陸軍士官学校がフランス語版から訳出したもので、フランス語のRensegnementを「状報」と訳しています。
ここに、情報と状報という二つの異なる訳語をめぐる大きな謎があります。続きは、改めて、、、
これは、森鴎外自身が訳出した部分ですが、同じ『大戦学理』でも、あとの方は陸軍士官学校がフランス語版から訳出したもので、フランス語のRensegnementを「状報」と訳しています。
ここに、情報と状報という二つの異なる訳語をめぐる大きな謎があります。続きは、改めて、、、
情報ということば: ─その来歴と意味内容
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小野 厚夫
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コメント
コメント一覧 (1)
明治期の外国文献の訳出は、日本語概念として定着していたものを遣いこなすだけでは仕事にならなかったでしょう。「状報」という概念もあったというお話も興味深く感じました。
情報は、友好的な立場のものなら好意的な感「情」のこもった「報告や報道」もあるし、敵対的立場なら攻撃的な感「情」の衣をまとった「報道や報告」もあるでしょう。そのいずれも純粋な FACTS 事実ではないにしても、そういう報告や報道は意図的な要素を含むから、「情報」という概念は実にうまく仕上がった造語だなあと思います。
さらなるご研究に期待しています。平成29年4月6日