もう14年前になるが、アメリカのワシントン,D.Cを訪れたとき、「アメリカ歴史博物館」(National Museum of American History)を見学した。そのときのブログを、ここに再録しておきたい。

2001年3月21日(水)
 
情報の時代


InformationAge


 ワシントンD.C.のアメリカ歴史博物館には、膨大な展示物があるが、「情報の時代」もその中の一つである。コミュニケーション、メディアに興味をもつ人にとっては、必見の展示といえよう。3月11日に見学したときに撮ったデジタルカメラの写真を使って、簡単に展示物を解説することにしたい。

1.モールスの電信機

 「情報の時代」の展示は、サミュエル・モースの発明した電信機から始まる。

 
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       モールスの発明した電信機

 サミュエル・モースは、1810年、エール大学を卒業したあと、肖像画の画家として働いていた。しかし、有名になってお金を稼ぎたいという野心を捨てきることができなかった。彼は発明家として世に出ようと思ったのである。彼は1832年に電信機の基礎を築いたがまだ実用化には至らなかった。1835年にニューヨーク大学教授の地位を得ると、彼は有能な助手を雇うことができた。それが電信機の実用化へとつながったのである。
 
 最初の電信線は、1844年にワシントンとボルチモアの間に敷設された。
ニューヨーク大学でモールスの教え子であったアルフレッド・ヴェイル(Alfred Veil)は、父を説得してモールスの電信機実用化のために資金を提供させた。また、自ら電信機の制作も行い、モールスを助けた。そして、モールスと支援者たちは議会を説得して、電信線を敷設させることに成功した。

 こうして、1844年、ワシントン-ボルチモア間に世界初の電信線が開通したのである。しかし、政府は電信線の保有に関心を示さなかったため、電信事業は民間企業によって行われることになった。


Telegraph&War
 
 電信機は、戦争で大活躍した。敵の情報を伝達する諜報活動の手段として欠かせないものになったのである。


2.電 話

 電信機と並んで、電話に関する展示もきわめて充実している。電話コミュニケーションの研究者は、必ず一度はこの博物館を訪問しなければならないだろう。

  
BellTelephone
    グラハム・ベルが1876年に発明した電話機

Telephone2
 

 ベルとほぼ同じ時期に電話機を開発したエリシャ・グレイ(Elisha Gray)は、特許申請がわずか数時間遅れたために、電話発明者としての歴史的地位を譲ることになってしまった。

  
GrayTelephone
   ベルにわずかに先を越されてしまったグレイの電話機

3.無線通信

 無線通信は、1895年、、マルコーニによって発明された。無線通信は、戦争や海難救助などで大活躍した。なかでも、タイタニック号沈没事故で無線通信の果たした役割はよく知られている。1912年4月14日、当時世界最大の豪華客船タイタニック号は、ニューヨークから、処女航海の旅に出た。しかし、14日の深夜、大西洋上で氷山に衝突し、沈没した。15日午前1時15分、タイタニック号から救助を求めるSOSの信号が発せられた。しかし、不運なことに、近くを航行中の船は、この信号を受信していなかったのである。この事故をきっかけとして、国際的に無線通信を法的に規制する取り組みが始まったことも記憶すべきであろう。

  
Titanic1
  無線機でタイタニック号からSOS信号を発する機関士

 
4.ラジオ・デイズ

 無線通信の技術は、ラジオ放送へと発展し、1920年からはラジオ放送が正式にスタートした。ラジオは、1920年代から30年代にかけて、報道、娯楽の手段として大きく発展した。1930年代はまさにラジオの黄金時代であった。

  
RadioDays
   ラジオの黄金時代。下は当時のラジオ受信機


4.コンピューターの登場

 20世紀が「情報の時代」といわれるのは、まさにコンピュータの登場のおかげである。アメリカ歴史博物館の最大の見せ物は、このコンピュータの展示だといっても過言ではないだろう。世界初のコンピュータといわれるエニアックからはじまり、パソコンに至るまでの歴史をたどることができる。

  
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      世界初のコンピューターENIAC

 1943年、アメリカ政府は、ペンシルベニア大学のMoore School が汎用電子計算機に関するプロポーザルに対し研究助成を与えた。そして、W.MauchlyとJ.P.Eckertをリーダーとする研究チームが世界最初の本格的電子計算機(コンピュータ)を完成させたのである。このコンピューターは、なんと18000本もの真空管を使った巨大な機械であった。
UNIVAC
  
    レミントン社の汎用コンピュータ UNIVAC

 その後、半導体であるトランジスタが発明され、コンピューターの性能は大hばに向上していった。

 また、半導体の小型化などにより、コンピュータの小型化も急速に進み、1970年代後半になると、いわゆるパソコン(パーソナルコンピューター)が登場する。

 この博物館には、初期のパソコンが数多く展示されている。

  
ALTAIR
    ビルゲイツも使った初期のパソコン ALTAIR

  
APPLE
     初期のアップルパソコン

  
Pasocon
    初期のパソコンの数々が展示されている

5.テレビの時代

 最後に、20世紀映像時代を象徴する「テレビ」についても、数は多くないが、いくつかの興味深い展示がある。テレビについては、同じワシントンのアーリントン地区にある「ニュージアム」(Newseum)やニューヨークにある放送博物館のほうがくわしいが、ここには、とくに1960年のアメリカ大統領選挙のテレビ討論会に関する興味深い展示が目を引く。これは、ケネディとニクソンの間で行われた大統領選挙中のテレビ討論会の様子をミニチュアのセットを使って再現したものである。

 セットの前には、いくつかのパネルが並んでいて、そこに当時の世論調査のデータなどが紹介されており、コミュニケーション研究者にとってはたいへん興味深い。

  
GreatDebate
    ケネディとニクソンの間のテレビ討論会(映像つきセットで疑似体験)

 このテレビ討論会は、史上初の電子選挙を印象づけるものであった。
 

 このように、アメリカ歴史博物館の「情報の時代」コーナーでは、電信機からテレビに至るまでの情報革命の進展を、手に取るように体験することができるようになっている。その大部分がまさしくアメリカの歴史でもあり、いまさらながら、20世紀がアメリカの世紀であったことを思い知らされる。日本製の発明展示品は、ソニーのテープレコーダーだけだったのはちょっとさびしい。