2016年4月27日から8月22日まで、国立新美術館で開催中の「ルノワール展」は、印象派の代表的画家である、ピエール・オーギュスト・ルノワール(1841〜1919)の生涯を辿る稀な機会を提供しています。そこで、ルノワール展の公式ガイドブックである『Renoir』を参照しながら、彼の画家としての遍歴をたどってみたいと思います。

1.印象派へ向かって

 展覧会場に入って、まず目を引くのは、印象派の萌芽がうかがえる、少年の裸像です。この裸像は、かなり写実的であり、クールベやマネの影響を感じさせます。けれども、布地のブルーとホワイトは、紛れもなく、後のルノワールと共通する印象派独特の色彩です。

ルノワール 猫と少年 - Google 検索 2016-06-24 12-42-43
























 次に展示されていたのは、私にもおなじみの美しい裸体の少女像です。ルノワール35歳の作品です。ここには、ややはにかんだ笑顔の健康的な少女と、光と影の混淆が印象的です。ガイドブックでは、次のように表現されています。
樹々の下に佇む少女が、やや斜めに上半身を傾け、物憂げなまなざしを投げかけている。影に沈んだ彼女の身体は青みを帯びているが、ところどころに落ちる木漏れ日が、バラ色の肌を照らし出す。丹念に色彩が重ねられた裸婦に対して、周りの草木を捉えるタッチは粗い。青、緑、黄色や白といった原色に近い絵の具が縦横無尽にカンヴァスを覆い、即興的な色彩の戯れが生まれる。






























2.肖像画の制作

 ルノワールは、若い頃から、人物画を得意にしていました。ルノワールと親しかった、さまざまな男女の肖像画を手がけています。今回の展覧会でとくに印象に残ったのは、黒いベールをかけた婦人像でした。  

ダラス婦人 この絵画では、婦人のかぶる黒いヴェールの透明感と、黒い服の質感がとても柔らかく、魅力的に描かれています。
























3.風景画家の手技


 ルノワールは、親友のモネを伴って、風景画にもチャレンジしています。私の見るところ、ルノワールの風景画は、モネやシスレーやセザンヌに比べると、やや魅力に欠けますが、今回の展覧会で、唯一気に入ったのは、「草原の坂道」です。

ルノワール 草原の坂道 - Google 検索 2016-06-24 14-00-24  この絵は、たぶん、モネと一緒に同じモチーフで描いたのではないかと記憶しています。モネもまた、同じような構図で、うつくしい風景画を描いていました。光にあふれる草原と、人物像がパステルタッチで、美しく描かれています。





4.「現代生活」を描く


 ルノワールは、流行している当時の現代生活の模様を、美しい色彩で描いています。その代表作は、「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」です。画題となった場所は、ジョルジュ・リヴィエールによると、「モンマルトルの岡の頂という風情あふれる場所に由来する、独特の雰囲気を漂わせた大衆的ダンスホール」だったそうです。いわゆる高級なサロンではなく、こうした大衆的な社交場を画材として選んだところに、ルノワールの人間性を感じ取ることができます。それにしても、これはまさに、名作中の名作といってもいいでしょう。今回の展覧会の目玉となっています。初来日だそうです。




























5.美しき女性たち

 ルノワールは、女性を美しく描く才能がありました。裸婦もそうですが、特に衣服を身につけた女性に魅力を感じます。今回の展覧会では、「田舎のダンス」「都会のダンス」「ピアノを弾く少女たち」が特に気に入りました。女性らしい仕草、優雅な指の描き方など、うっとりしてしまいます。






























 「ピアノを弾く少女たち」は、私にとって、おなじみの絵画です。オルセー、メトロポリタン両美術館で見た記憶があります。見ていると、音楽が流れてくるような、ほのぼのとした気分にさせられます。ちなみに、音声ガイドでは、ドビュッシーのピアノ曲がBGMで流れていました。

 





























 この他にも、魅力的な作品が多数展示されています。閉展までに、ぜひもう一度足を伸ばしてみたいと思っています。

 なお、展覧会の公式サイトは、次のところです。

ルノワール展